型についての考察③
明治から昭和にかけての拳豪に本部朝基(もとぶちょうき)という沖縄空手最強の達人がいた。この人は内歩進(ナイファンチ)という型の大家でもあり、“内歩進の虎”という異名までついている。この型は簡単なようでかなり奥が深い。本部朝基はこの型の角度を変えるだけであらゆる実戦に対応出来ると言い、実際に当時の実力ある格闘家数人を倒したという。空手は元々命のやり取りを前提とした武術なのだから、目を突くとか急所を潰すとかは最も有効な技である。それが型に組み込まれたのは当然だろう。そしてそれに則した鍛錬が為される。古代の空手家は肘から先、膝から先の先端に向かっての鍛え方が今とは全く異なる。当時の「実戦」とは、素早く致命的な攻撃を敵に与える事なのだ。ナイファンチという型は確かに派手さは無いが、出来る限り小さい動きで確実な牽制と攻撃性を秘めている。今回の夏季合宿で講士館の小宮副代表がこの型を指導した。フルコンタクト空手系では無い型だ。ゆえに最初に書いた「伝承」という言葉には当てはまらないものではある。それでもこの型を稽古するうちに、確かにいにしえの達人が「実戦性」を唱えて繰り返した理由を僅かではあるが理解出来た気はする。◆私は佐藤塾時代、大会で何度か佐藤勝昭師範と一緒に「征遠鎖」を演武した。一糸乱れぬよう呼吸を合わせた。今でもこの型を行う時、すぐ横に佐藤師範の影を感じる事がある。ナイファンチを常に稽古し、受け継いで来られた空手家の方は、同じように伝説の本部朝基先生と百年の時を超えて呼吸を合わせているのではないだろうか。