翼が開く時
稽古中、小3になったばかりのS君の肩が外れた。人一倍稽古熱心な彼は一週間で9クラスに参加している。脱臼したその日も二つ目のクラスが終わったところで泣きながら「次のクラスは見学します」と言ってきた。見ると腕が小刻みに震えている。すぐに医者に行くように進言して次の稽古は見送らせた。診断はやはり脱臼。しばらくは肩を動かさないようにと言っても気がつくと普通に稽古をしてしまう。止めるのが大変なのである。脱臼の原因も、骨格が自分の繰り出すパンチの威力に追いついてないというものだった。軽自動車にロケットエンジンを積んでいるようなもので車体はたまったものではないが、小さな体に凄まじい闘魂、大きくなるまで持ち続けて欲しい。 生徒の性格は様々だが、身体の特性以上に性格的なものが方向を決めてしまうから指導も一辺倒ではダメなのである。最初から負けず嫌いな子もいれば、その気がないまま親の意向で入門してくる子もいる。S君とは逆に、牛のような体に小鳥のようなハートの子もいる。それでも何かのきっかけで人は生まれ変わることがある。急に目覚める子もいる。私もいろんな子の変化を見てきた。それが一番の楽しみでもある。あー、この子は変わり始めたな、と感じる瞬間ほどワクワクするものはない。目を開けていても見てない子、何を言っても聞いてない子、向きが変わると方向がわからなくなる子、おとなしいのに時々キレる子、優しすぎる子…。それでもいつか自信がついて、自ら殻を破った時、その翼の大きさや美しさに驚くことになるかもしれないのだ。 待ちましょう。